「コーヒー」と生きる〜そして、一杯の向こう側〜第28話

好きと良いは、違う

 

「好き」と「良い」は、同じようで、少し違います。

 

以前の私は、この二つをあまり分けていませんでした。
自分が好きなものは、きっと良いものだと思っていたし、良いと思うものは、誰にとっても良いはずだと、どこかで信じていました。

 

でも、そうではありませんでした。
自分にとっての「好き」は、あくまで自分の感覚です。

 

一方で「良い」は、もう少し広い視点で見たときに初めて見えてくるもの。
誰かにとっては合わないこともあれば、その人の今の状態では受け取れないこともある。
それでも、「これは良いものだから」と伝え続けていた頃、うまく届かないことが増えていきました。

 

振り返るとそこには、“わかってほしい”という気持ちがありました。

 

良いと思っているから伝えたい。
でもその奥には、「理解されたい」という自分中心の思いがありました。

 

相手のためのようでいて、主軸は自分にあった。
だから、届かなかったのだと思います。

 

人は「良い」だけでは動きません。
そして、「好き」を押しつけられても、やはり動きません。

 

大切なのは、その人にとっての「好き」がどこにあるのかを知ること。
そこに寄り添いながら、少しずつ「良い」に触れてもらうこと。
その順番が、とても大事なのだと気づきました。

 

今は、自分の「好き」を大切にしながらも、それをそのまま人に渡そうとは思わなくなりました。

 

まずは相手の「好き」を知る。
その上で、そっと「良い」を差し出す。
その方が、無理なく、自然に届いていく気がしています。

 

好きと良いは、違う。

 

でも、その二つが重なったとき、人は静かに、でも確かに動き出す。

 

(文:横井 力)