Agtウォールギャラリーインタビュー 橘春香さん
Agt2階のウォールギャラリーで、5月に予定していた絵本「こどももちゃん」の原画展。コロナウイルス感染拡大防止のため延期となっていましたが、6月5日(金)から開催することとなりました。原画展開催にあたり、作者である絵本・童話作家、イラストレーターの橘春香さんにお話を伺いました。
不機嫌だけど、愛くるしい「こどももちゃん」
ピンク色の「こどももちゃん」に、グッと引き付けられる印象的な表紙。不機嫌な顔をしているけれど、それがまた何とも愛らしく、「どうしたの?」とにこやかに問いかけたくなるような雰囲気を醸し出しています。
「こどももちゃん」は、橘さんが絵と文の両方を手掛けた初めての絵本。2005年に発売されました。橘さんは、女性向けファッション誌などでイラストレーターとして活躍する傍ら、絵本作家になりたいという想いをずっと持ち続け、絵本作家養成ワークショップ「あとさき塾」に入塾。そこで描いたのが「こどももちゃん」でした。
「最初から不機嫌な子どもを主人公に描きたいと思っていました」と、橘さんが見せてくれた手帳には、こどももちゃんの原型となる最初の絵が描かれていました。
「でもなかなか、不機嫌な理由を見つけることができなくて…」と橘さん。ある日、明け方の夢の中で、「パンツが破けている!」というアイデアが沸き、目が覚めたそう。そのときすぐに書き込んだメモも見せてくれました。
絵本作家になる原点は、3歳のころ
横浜出身の橘さん。子どものころから、描いた絵にお話をつけるのが好きな女の子だったそう。3歳くらいのときによくページをめくっていた、雑誌「いちごえほん」(編集長はやなせたかしさん)が、「絵と言葉の織りなす世界」に興味を持つきっかけだったと話します。
本格的に絵本作家になりたいと自覚したのは高校生のころ。美術大学へ進学し、一時はデザインの道に進もうかと思いましたが、やはり絵と言葉をゼロから作り上げていく絵本への想いを諦められませんでした。
イラストレーターとして生計を立てながら、「あとさき塾」へ通っていたとき、橘さんのイラストに以前から関心を寄せていた担当編集者から「絵本に興味ありませんか」と連絡がきます。これをきっかけに、「こどももちゃん」が世に出ることとなります。
子どものころの想いがよみがえる作品たち
「こどももちゃん」の絵本は、大人のための絵本セラピーでもよく取り上げられる作品だそう。読み聞かせの際、くまのお母さんがこどももちゃんのパンツのゴムが切れていることに気付くページで、涙を流す大人が多くいるとか…。「作品を描いたときは20代で、こどももちゃんの気持ちで描いていたのですが、今になって、私の母の考えがくまのお母さんに反映されていると気づきました」と橘さん。お母さんは、すべての子どもたちに、「あなたたちが住んでいるところは安全だよ。ちゃんと見ている、見守っている大人たちが必ずいるからね」ということを伝える生き方をされていたそう。自分たちも見守られて大人になったのだと思うと、その感覚がよみがえり、じんわりと心に響いてきます。
「こどももちゃん」に限らず、橘さんの作品には、子どものころの原風景が散りばめられています。日常のちょっとしたシーンから広がっていく空想の世界の美しさや楽しさが、大切な宝物のように描かれていて、子どもにはファンタジーの世界と現実を自由に行き来できる特権があったことを思い出させてくれます。
また、橘さんの作品は、やさしい色使いや柔らかなタッチも魅力のひとつ。今回の展示では、印刷したものとは異なる原画ならではの色のトーンも見ることができます。原画のこどももちゃんのピンク色は、印刷では出し切れない鮮やかな発色なのだそう。絵本との違いも楽しめるこの機会にぜひ足を運んでみてください。会期は、6月24日(水)まで。