MOKUな人 Vol.4  桧山雅一さん(桧山農場代表)

「自然栽培を通じて、自身の在り方や生き方を考えるようになった」

「MOKUな人」は、MOKUと関わりのある方やマガジンコンセプトに合った活動をされている方たちを紹介していくコーナーです。4回目は、MOKUの店「Agt」で扱っている自然栽培米のお米を作ってくださっている桧山農場代表の桧山雅一さんです。まだ暑さの残る8月下旬に取材におじゃましました。

作物には、作り手の想いが影響を与えている

自然栽培米やJAS有機栽培米を作っている桧山農場。札幌の中心部から、車で1時間ほどの当別町にあります。代表の桧山雅一さんは2代目。桧山さんの父親・喜三さんが入植し、原野を開拓したところから始まりました。「父が開拓で入ったころは、土もできていないし、気候も今とは違う。7月でも寒いような時代でした。米の品質も良くないし、なかなか収量も上がらない。収量を上げるには化学肥料と農薬に頼らざるを得ない時代だったと思います」と桧山さん。そんな桧山さんが、JAS有機栽培米や自然栽培米を作るようになったきっかけは、いくつか理由があります。

1980年代、ちょうど桧山さんが25歳のころ。ひょんなことから知り合った人に、「無農薬の野菜を作りたいから土をおこす機械を貸してほしい」と声をかけられます。無農薬で野菜なんて無理だろうと思いつつ、気になった桧山さんは畑に顔を出すようになります。そのうち、無農薬できちんと野菜を育てているのを見て、自分の畑でも挑戦してみますが、なかなかうまくいきません。「途中で気づいたんですけど、その方は人にあげるために無農薬で野菜を作っていたんです。その方の野菜を食べると元気になるという人もいて、実際、味も美味しかった。そのときに、作る人の想いや意識がエネルギーや波動として作物に影響しているのではないかと考えるようになりました」。

自然栽培や有機栽培に興味関心が深くなるものの、喜三さんから強い反対を受け、結局慣行栽培を続けることに。国内の米は「食糧管理法」によって政府が管理していましたが、のちに「食糧法」が改正され、農家でも米を直接販売できるように法律が変わります。「うちでも少しずつ売り始めましたが、JAに卸していたときの収量重視とは異なり、農家が直接売る際は、『美味しくないと売れない』ということが分かりました。そこで、減農薬のお米を作ってみるなど工夫を始めました」と振り返ります。また、近くの農家さんが行っていた「冬みず田んぼプロジェクト有機栽培米」に参加し、JAS有機栽培にも挑戦。ちょうど2008年のころでした。

「自然から学ぶこと」で見えてきたもの

2010年に、MOKUの代表・奥村大亮の紹介で、奇跡のリンゴで知られる木村秋則さんと出会います。講演会で話を聞き、「有機の次は、肥料を使わない自然栽培をやってみたい」と強く刺激を受けます。同じ頃、周りにも自然栽培に興味関心を持つ仲間が増えてきたことも後押しとなり、木村さんの技術指導の勉強会にも参加。その際、「北海道は北海道のやり方があるし、自然に尋ね、自然から学べばいいよ」と言われ、そこから自然栽培に本格的に取り組むようになります。

「自然栽培は人間がコントロールできないもの。せいぜい稲を育てる環境を整えるために、水を冷たくしたり、温めたり、除草をする程度。とにかく、田んぼを見続けるしかない、声を聞くしかない。自然というのはスゴイということを実感させられます」と桧山さん。20代のときに感じた作物に影響を与えた作り手の波動やエネルギーのこと、自然栽培に取り組みはじめて知った「すべてのものは自然や宇宙が教えてくれる」という経験から、「自然栽培というのは、作り手の『生き様』が分かりやすく出るもの。僕自身、だんだん目線が宇宙や地球レベルになってきて、生き方や在り方を考えるようになりました」。

桧山さんが直接販売するお米の袋には、書家である妻の由美さんによるステキな文字が描かれています。作ったお米そのものに桧山さんの愛情や温かな気持ちが詰まっていますが、袋にも思いを込めた「青い空広い大地 一粒の愛」というメッセージが…。青い空は、世界中につながっていること、広い大地は北海道、一粒は種を表現。そして、「種は食の全ての源であり、生命、大切なものであり、種は実になり、たくさんの人の食を満たしてくれる。そして、種や実は善人も悪人も関係なく食を与えてくれる。種は愛そのものだと思います」と桧山さん。

桧山さんと由美さん

みんなの生き方が変われば、世界も変わっていく

「最終的には楽しく農業をしながら、自分の時間も取れる。そういうスタイルの生き方ができればいいなと思います。これは、どんな職業でも同じだと思いますが。みんなが自分の時間を取って、好きなことをやれる。そういう生き方をできるようになれば、世界も変わっていくだろうなと思います」と桧山さん。最近は、農薬を使わずとも波動をうまく利用して除草できる機械ができないだろうかと考えたりしているそう。「それができるようになれば、自然栽培やオーガニックの野菜作りをしたいという後継者も増えるようになるだろうし、農業の世界も変わるだろうなと。そうなれば、働き方や生き方も変わると考えています」。自分だけが良ければいいとは思わない器の大きさや、俯瞰で世の中を見ることができる視点の高さなど、桧山さんと話していると勉強になることがたくさんあります。

さて、桧山さんのところで作っている自然栽培米は、「ゆめぴりか」と「ゆきさやか」。「自然栽培だから何でもいいわけではなく、やっぱり美味しいものがいい。日本人は、コシヒカリのもっちりした感じのお米を美味しいという人が多数なので、もちっとしたゆめぴりかを作っています」。今年は除草もうまくいっているそうで、美味しいお米が期待できそうとのこと。これは楽しみですね。

桧山さんのお米は、Agtの店頭、オンラインショップからも購入できます(新米は10月ごろから販売)。桧山農場のホームページはこちら。http://www.riz-japan.com/index.html