「コーヒー」と生きる〜そして、一杯の向こう側〜第5話
誰かに見られていると思って仕事をする

「誰かに見られていると思って仕事をする」
この言葉は——
同級生である洋菓子店のオーナーから教わったものでした。
誰が見ていても、見ていなくても、同じように仕事をする。
周囲の環境に左右されることなく、いつも同じ姿勢で仕事に向き合う。
それは、お客様や、食材を提供してくださる方々への心からの誠意であり、忠誠心とも言えるのだと思います。
当時の僕は、生意気盛りの真っ只中。
はっとはさせられたものの、その言葉が本当の意味で心に留まるまでには、何年もの時間が必要でした。
コーヒー豆は、農園で果実として実るところから始まります。
実を摘み、果肉を取り除き、発酵と乾燥の工程を経て、ようやく出荷の準備が整います。
そこから仲買人や輸出業者の手に渡り、南アメリカ(ブラジル・コロンビアなど)からであれば、およそ1〜2か月。
さらに、日本到着後の通関や引き取りで3〜7日ほどの時間を経て、国内輸送され、ようやく僕の手元に届きます。
こんな長い旅をしてきた生豆を前に、あの言葉がふと、よみがえりました。
「もっと、まことと敬意をもって向き合うべきではないか」
一粒一粒に込められた時間と、人の手と、熱い想い。
それを受け取る最終ランナーとして、その重みから目を逸らしてはいけない。
だからこそ今日も、一粒の豆に宿る大事を、心のどこかに置いたまま、豆と向き合い、焙煎と向き合い、コーヒーがつないできた多くの想いをお客様へ手渡す役目を、静かに果たしていきたいと思っています。
(文:横井 力)
☆ 次回は2/24(火)の投稿です。

