「コーヒー」と生きる〜そして、一杯の向こう側〜第20話
コーヒーは甘さで終わる

コーヒーの味を表現するとき、多くの人は最初の印象を語ります。
酸味がある。
苦味がある。
香りが華やか。
確かにそれも大切です。
しかし私がコーヒーを飲むとき、いつも最後に見ているものがあります。
それは、後味です。
コーヒーを飲み込んだあと、口の中にどんな余韻が残るのか。
その一瞬に、そのコーヒーの本当の姿が現れるような気がしています。
若い頃の私は、もっと派手な味を追いかけていました。
強い香り。
わかりやすい個性。
印象に残る一口。
しかし長く焙煎を続けていると、だんだんと考え方が変わってきました。
本当にいいコーヒーは、最後に静かな甘さが残る。
強い刺激ではなく、ゆっくりと広がる甘さ。
そしてその甘さは、時間とともにやさしく消えていきます。
私はその感覚を、どこかで知っていました。
それは、日本料理の出汁です。
昆布や鰹節の出汁は、派手な味ではありません。
口に含んだ瞬間よりも、飲み込んだあとに旨味が広がる。
そしてその余韻が、静かに続いていく。
日本人の味覚は、その「余韻のおいしさ」を長い時間をかけて育ててきました。
コーヒーもまた、同じだと思っています。
最初の印象だけではなく、最後にどんな甘さが残るのか。
そこに、そのコーヒーの本質がある。
私は焙煎をするとき、いつもそのことを考えています。
派手な味ではなく、長く心に残る味。
飲み終えたあとに、もう一口飲みたくなるような味。
コーヒーは香りの飲み物とも言われますが、私はこう思っています。
コーヒーは、甘さで終わる。
私は、そう思っています。
(文と写真:横井 力)

