「コーヒー」と生きる〜そして、一杯の向こう側〜第21話

コーヒーは体を表す

 

「書は体を表す」という言葉があります。書いた文字には、その人の性格や生き方がにじみ出るという意味ですね。

 

長くコーヒーに関わってきて、私はそれと同じことを感じるようになりました。
焙煎にも抽出にも、その人の“体”が表れる、と。

 

どんな豆を選ぶのか。
どこまで火を入れるのか。
どんな味を「良い」と感じるのか。
そのすべてに、その人の考え方や価値観がにじんでいます。

 

若い頃の私は、技術ばかりを追いかけていました。
焙煎の理論、抽出の方法、世界のコーヒートレンド。

 

もちろん、どれも大切なことです。けれど長く続けていくうちに、だんだん気づいてきます。
技術だけでは、コーヒーは完成しない、と。

 

同じ豆を使っても、同じ焙煎機を使っても、同じレシピで淹れても、人が変われば、味が変わる。
それは不思議なことではありません。

 

コーヒーは農作物です。自然の恵みを受け取る仕事です。
だからこそ、どんな姿勢で向き合うかが、最後の一杯に表れるのだと思います。

 

焙煎をしていると、うまくいかない日もあります。

 

焦っているとき。
気持ちが乱れているとき。
どこかで無理をしているとき。

 

そういうときのコーヒーは、やはりどこか落ち着かない味になります。

 

逆に、心が整っているときは、不思議と味も穏やかになる。
もちろん、これは科学ではありません。証明できるものでもありません。
けれど長く焙煎を続けていると、そんな瞬間に何度も出会います。

 

だから最近は、コーヒーを作る前に、自分の状態を整えることを大切にしています。

 

いいコーヒーを作ろうとするより、まず自分を整える。
その方が、結果としていいコーヒーになることが多いからです。

 

コーヒーは、人の体を表す。

 

だから私は、一杯のコーヒーを通して、その人の生き方を感じることがあります。

 

そして願うのです。
自分のコーヒーにも、少しでも穏やかなものが、にじみ出ていたらいいなと。

 

(文と写真:横井 力)