MOKUな人 Vol.5 菅村健徳さん(菅村農園代表)

「ただ栽培するのではなく、食全体を考えて作った安心な作物を提供したい」

「MOKUな人」は、MOKUと関わりのある方やマガジンコンセプトに合った活動をされている方たちを紹介していくコーナーです。5回目は、MOKUの店「Agt」で販売している自然栽培米のお米を作ってくださっている菅村農園(当別町)の菅村健徳さんです。8月末に取材に伺いました。

自分が跡を継ぐとは思ってもいなかった

前回のMOKUな人に登場していただいた桧山雅一さんの農場から車ですぐのところに、菅村農園があります。菅村健徳さんの祖父が樺太から当別へ入植し、森を切り拓くところからの開拓だったそう。当初は酪農を営んでいましたが、菅村さんの父親の代から米や大豆、麦などを栽培するようになりました。3人兄弟の末っ子だった菅村さんは、当初自分が農業を継ぐつもりはなかったと話します。

高校を卒業後、札幌や仙台で営業の仕事に就いていた菅村さん。2007年、仙台にいたとき、父親が難病であると知らされます。翌年には農作業ができなくなり、後継者問題が浮上します。「ちょうど僕自身、営業の仕事が自分にとって一生の仕事かどうか悩んでいた時期でもありました。兄は農業を継がないと言っていましたし、かといって自分が継ぐというのも…という感じでした」。そのことを友人たちに相談すると、「新規で農業をやりたいという人からすれば、恵まれている環境だよ。土地だって、機械だってあるわけだし」と思ってもいなかった答えが返ってきました。「そうか、それなら、ちょっと農業の勉強してみようかなと思いました。勉強してみて、これは違うと思えばまた考えればいいしと…」。

目指したい方向が見えた一冊の本との出合い

たまに農作業を手伝うだけだったので、農業について分からないことだらけだった菅村さんは、まず農業関連の本を読んでみることにしました。最初に手にしたのが、奇跡のりんごで知られる木村秋則さんの本でした。「薬も肥料も使わない農業というところに強い感銘を受けて、ドはまりしました(笑)。こういう農業ならやってみたいと思いました」と振り返ります。肥料や農薬はいるものだと思っていた菅村さんにとって、木村さんが実践する自然栽培は目からウロコでした。

木村さん(後列中央)を囲んで。前列左でしゃがんでいるのが菅村さん

 

木村さんの本を手にしたのが2009年の2月。子どもが生まれたばかりでしたが、翌月には会社を辞め、4月から実家で農業を始めます。初年度は、田んぼの準備が間に合わず、すべて畑作に。とにかく手探りで農業を始めた菅村さんに、ある日、農機具を扱う幼なじみが「田植えを手伝ってくれる人を探している農家がある」と連絡をくれます。しかも、有機栽培をやっていて、自然栽培も始めるらしいと聞き、「これは運命だ!」と手伝いに行くことにします。その農家が桧山農場でした。「桧山さんにはいろいろ教えてもらいました。木村さんが技術指導に来るというときも、一緒に参加させてもらいました」。翌年2010年から田んぼをスタート。まずは2反分からはじめました。「除草がとにかく大変で、正直きつかったですね。あとはもう試行錯誤でした」。

農業を通じて、食や健康についても考えるように

農業をはじめてから、ただ農作物を作るだけでなく、食のこと全体を学ばなければならないと気付きます。「安心安全な食べ物とは何なのか、添加物は必要なのかなど、食にまつわるあらゆる本を読み、講演会や勉強会にも参加しました。食養や発酵のことにも興味がわき、人の体や健康、環境のことなども意識するようになりました。昔は、農薬は必要悪だと思っていましたが、学ぶ中で、人体への影響を考えるとやっぱり農薬は使いたくないと思いました」。こうした学びをベースに、安心して食べることができる農作物を作り続けています。

 

学校給食のお米をすべて無農薬にしたい

 

菅村さんは、農業の仕事の合間に味噌作りなどのワークショップも行っています。子どもたちにもしっかり食のことを伝えていきたいと考え、小学校で親子の味噌作り体験も開催。「子どもの舌は正直です。添加物の入っていない、本物の味噌の味を知ることで食生活が変わると思います」。

 

次の世代のことを考え、行動している菅村さん。自宅は江別市にあり、子どもたちも江別の学校に通っています。今の目標は、「江別市の学校給食のお米をすべて無農薬にすること」と話します。「食の勉強会に出たり、自分でイベントを開催して気づいたのが、参加してくれる方は、最初から食や健康に興味を持っている人が大半であるということでした。興味がない方たちにも知ってもらいたいのに、なかなか広がらないというジレンマがあります。でもあきらめずに、少しずつコツコツやっていくしかないと思っています。その一方で、たくさんの人の食の意識を変えていくには、大きく根底から変えることが必要だとも感じています。そのためには、学校給食が一つの鍵になるのではと考えているところです」。熱い想いが言葉の一つひとつから伝わってきます。

菅村さんのところで作っている自然栽培米は、ななつぼし。何度も何度も田んぼに入り、除草を行い、手間をかけて育てた新米が届くのが楽しみです。

菅村さんのお米は、Agtの店頭、オンラインショップからも購入できます(新米は10月ごろから販売)。菅村農園のホームページはこちら。https://home.tsuku2.jp/storeDetail.php?scd=0000097964