ボーヴィラージュ子育てインタビュー vol.1 ちいさなえほんや ひだまり 店主 青田正徳さん part2
前回に続き、札幌にある絵本専門店「ちいさなえほんや ひだまり」の店主・青田正徳さんのインタビュー。今回は、昔話が伝える本来の意味や青田さんの「子育て三部作」についてです。絵本と子どもにまっすぐ向き合ってきた青田さんの想いや願いが少しでも多くのお母さんたちに伝わりますように…。
昔話は、先人たちの想いが詰まった口承文学
前回、五歳までに出合ってほしい五冊を青田さんに選んでもらいました。その中の一冊に、昔話の「ももたろう」(文/松居直、絵/赤羽末吉、福音館書店)があります。「いろいろな『ももたろう』の絵本が出版されていますが、私が認めているのはこの『ももたろう』です」と青田さん。
昔話は、先人たちが代々語り伝えてきたおとぎ話。どんな想いで語り継がれてきたかを知るべきだし、絵本にする際も勝手に短くしたり、異なる解釈を加えてはならないと青田さんは言います。たとえば、「ももたろう」の終わり方。青田さんが勧める「ももたろう」で、ももたろうが鬼ヶ島から持ち帰ったのはお姫さまだけ。金銀財宝は持ち帰っていません。「これは、宝物を持ち帰ると鬼と同じ奪略者となってしまい、争いがまた続いてしまうからです。それよりも命をつないでいくということが大事だと伝えているのです。お姫さまだけを連れ帰ることはそれを意味しています」。
たくさんの昔話の絵本がありますが、選び方が分からないという人が多いはず。選書のポイントを聞くと、「表紙や背表紙に『名作』と書かれていないもの、表紙に『文』または『再話』を担った人の名前、絵を描いた人の名前が書いてあるものを選んでほしい」と青田さん。「再話」というのは、口承で伝えられてきた昔話を共通語に整えたということだそうです。
知っていますか? 日本の五大昔話
さて、皆さんは日本の五大昔話を知っていますか。さるかに合戦、かちかち山、花咲爺、したきり雀、桃太郎の五つがそれにあたります。五大昔話の絵本で、青田さんが「本物です」と太鼓判を押すのが次の五作です。
「さるとかに」(文/神沢利子、絵/赤羽末吉、BL出版)
「かちかちやま」(再話/小澤俊夫、絵/赤羽末吉、福音館書店)
「そばがらじさまとまめじさま」(再話/小林輝子、絵/赤羽末吉、福音館書店)
「したきりすずめ」(再話/石井桃子、絵/赤羽末吉、福音館書店)
「ももたろう」(文/松居直、絵/赤羽末吉、福音館書店)
「さるとかに」はさるかに合戦、「そばがらじさまとまめじさま」は花咲爺の元となったお話です。どの作品も、赤羽末吉さんが絵を担当しています。「昔話はもともと語りですから、絵でも語れるかが重要。赤羽さんの絵は、リアリティを持たせつつ、まるで舞台を見ているかのようにドラマチック。ぐいぐい絵に引き込まれます」。
「あなたは宝物」と子どもに伝える子育て三部作
絵本と子育ての講演会も多く依頼される青田さん。講演会でいつも紹介しているのが、「子育て三部作」と呼んでいる三冊の絵本です。
「だめよ、デイビッド!」(作・絵/デイビッド・シャノン、訳/小川仁央、評論社)
「ちょっとだけ」(作/瀧村有子、絵/鈴木永子、福音館書店)
「いいこってどんなこ」(文/ジーン・モデシット、絵/ロビン・スポワート、訳/もきかずこ、冨山房)
この三冊の共通点は、「どんなときも最後は子どもをしっかりと抱きしめて、ありのままのあなたが大好きだと伝えることが描かれているところ」と青田さん。いたずらばかりしたって、言うことをきかないときがあったって、親にとって子どもは宝物。それをこれらの作品を通じて子どもに伝えてほしいと青田さんは言います。「読み聞かせでお母さんの気持ちを伝え、子どもに安心感を与えてほしい。ぬくもりのある同じ時間を共有したら、最後は抱きしめてあげてください」。子育て中はバタバタとあわただしいものですが、そんなときこそ、ほんの数分でもいいから深呼吸して、子どもと一緒に絵本のページをめくってみませんか。
絵本の世界は奥が深いもの。もっと知りたい!と思った方は、ぜひ青田さんのいるひだまりへ。今回紹介した絵本は、ひだまり、ボビラ堂でも扱っています(一部除く)。
ちいさなえほんや ひだまり
札幌市手稲区新発寒6条5丁目14-3 TEL011-695-2120
営業時間/金・土・日・月・祝日 10:00~19:00
取材・文/中村昭子