平和って? 家族って? この夏、親子で読みたい絵本&児童文学

8月は終戦記念日もあり、平和について考える機会が増えます。さらに、今年はコロナウイルスにより当たり前の日常が当たり前ではなくなってしまいました。生き方、暮らし方、働き方、自分自身や家族の在り方について考えるきっかけになったという方もたくさんいらっしゃると思います。そこで、今回は絵本や書籍にまつわる仕事をされている方たちにご協力いただき、平和や家族がテーマの作品を紹介していただきました。この記事では紹介しきれないほどたくさん素晴らしい作品を紹介していただいたので、ここで紹介したものとそれ以外の絵本などをAgt&ボビラ堂で展示しています。8月7日から末日まで。ぜひ家族で足を運んでいただければと思います。

青田正徳さん <ちいさなえほんや ひだまり店主>
「しろとくろ」 作/きくちちき (講談社)

きくちちきさんは、デビュー作「しろねこくろねこ」でブラティスラヴァ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞。その後も、大胆でありながら繊細さを持ちあわせた作品を次々に発表しています。「しろとくろ」は、白いねこと黒い犬の出会いの喜びが、のびやかな線とあざやかな色で描かれています。
青田さんから
「この作品は、白いねこと黒い犬が時間を進めていきますが、作中に描かれている野原の虫、カエル、蝶、草花ら、登場するすべてのものが今を生き、命を輝かせています。かけがえのない大切な日常をすくい取る作者のまなざしの奥に、平和への願いが込められていると思います」。
<ちいさなえほんや ひだまり>
札幌市手稲区新発寒6条5丁目14−3
営業時間/10~19時
定休日/火・水・木曜
電話/011-695-2120
店主の青田さんが確かな目で厳選した絵本が並びます。現在は、きくちちきさんの原画展を開催中。原画ならではの迫力や繊細さを見ることができます。絵本とはまた違う素晴らしい絵の数々は必見です。

 

古川奈央さん <俊カフェ店主>
「生きる」 詩/谷川俊太郎 絵/岡本よしろう (福音館書店)

1971年に出た詩集「うつむく青年」に収録されている詩が、2017年に絵本として発売されました。小学生の子どもたちが家族と過ごす夏の1日を描いた絵に、何気ない日常が「生きていること」そのものであると教えてくれる1冊です。
古川さんから
「俊太郎さんはよく『僕はいま、ここの人だから』とおっしゃいます。今を生きている人なのです。『生きる』という詩には、今という瞬間を生きることをどれだけ大切にできるかを問われている気がします。『おはよう』と挨拶ができ、『美味しいね』と食卓を囲めるという日常がどれだけ尊いものかを知ることができる作品です」
<俊カフェ>
札幌市中央区南3条西7-4-1 KAKU IMAGINATION 2階
営業時間/11~18時
定休日/火曜
電話/011-211-0204
https://shuntcafe.thebase.in/
詩人・谷川俊太郎さん公認のカフェ。店内では、谷川さん関連の閲覧用書籍が500冊近くあるほか、谷川さんの書籍や関連グッズなどの販売も行っています。詩や絵本にまつわるイベントやワークショップ、音楽ライブなども行っています。

 

森景子さん(めめさん) <絵本専門士、絵本セラピスト>
「へいわってどんなこと?」 作/浜田桂子 (童心社)

温かな目線で家族や子どもたちを描いてきた浜田桂子さんが、日本・中国・韓国の3か国の絵本作家たちと作った平和絵本シリーズの第一作。「きっとね、へいわってこんなこと」と、いろいろな角度から平和について語られていきます。

めめさんから
「これを読んだとき、『あさまでぐっすりねむれる』ことも平和なのだということに気付かされました。ページをめくるたびに、戦争が起きるとどういうことになるかを読み取ることができます。当たり前の日常がどれだけ愛おしいものであるかも感じさせてくれます」
<めめさんのワークショップ情報>
現在NHKカルチャー教室で「大人が楽しむ絵本の世界」を毎月第2水曜13時〜開催しています。また随時、大人向け、親子向けの絵本を使ったワークショップを開催しています。詳細は、ホームページ「めめさんのえほんの森」https://www.ehonno-mori.com/から。

 

出町南さん <絵本屋 南風店主>
「わたしの『やめて』」 文/自由と平和のための京大有志の会、絵/塚本やすし(朝日新聞出版)

京都大学で安保法案反対のために結成された「自由と平和のための京大有志の会」が、ネットでアップした声明書は大きな反響を呼びました。世界中の言葉で訳され、さらに子どもにも分かりやすいよう「子ども語」にも訳されました。その子ども語の声明書に、迫力のある塚本やすしさんの絵をつけた絵本です。
出町さんから
「どうやって戦争がはじまるのか、戦争が起こると自分たちがどうなってしまうのかということから、自分の命は自分のものであるということ、自分たちはどうありたいと思っているのかということを、とても分かりやすくシンプルに、でもとても力強く表現した1冊だと思います」
<絵本屋南風>
札幌市清田区里塚2条5丁目6-5
営業時間/10~17時
定休日/不定休
※完全予約制
電話/011- 885-2967
Mail/minamikaze.book@gmail.com
事前に電話かメールで予約をお願いします
https://ameblo.jp/ehon-minamikaze/
自宅を改装した一軒家の絵本屋さん。小学校の先生で、学校図書の活動に関わってきた出町さんならではのセレクト絵本が並びます。9月には、絵本作家のかさいまりさんを招いた講演会などを実施する予定。

 

尾崎実帆子さん <さっぽろブックコーディネート代表>
「ぼくたちがギュンターを殺そうとした日」 著/ヘルマン・シュルツ、訳/渡辺広佐(徳間書店)

終戦直後の混乱しているドイツの農村を舞台に、少年たちの間に起こる同調圧力やいじめなどの問題を描いた児童文学。戦争の影の下、危機的な状況に陥った少年たちを描いていますが、現代にも通じる問題が浮き彫りになっている作品です。
尾崎さんから
「舞台は戦後ですが、読み進めていくと、戦後とか、古い時代に関係なく、今でも十分に起こりうる問題が描かれています。ネット上でも学校の教室でも、自分の身を守るために誰かの心を殺してしまってはいないでしょうか。重いテーマを扱っている作品ではありますが、読後感は思ったよりすっきりしていて救いがあります」

<さっぽろブックコーディネート>
「さっぽろブックコーディネート」は、カフェやショップ、商業施設、イベント会場など、街のさまざまなお店や場所で本を買える仕組みを作っています。また、北海道ブックフェスをはじめ、本にまつわるイベントを企画開催したり、書評執筆なども行なっています。https://www.sapporobookco.com/

 

 

佐賀のり子さん <学校法人北邦学園理事長・江別蔦屋書店絵本コンシェルジュ>
「わたしのせいじゃない せきにんについて」 文/レイフ・クリスチャンソン、絵/ディックステンベリ、訳/にもんじまさあき(岩崎書店)

教室で一人の男の子が泣いています。一体何があったのでしょう? ページをめくるごとに、「わたしのせいじゃない」「ぼくはしらない」「みんなたたいたんだもの」と、ほかの子どもたちの言い訳が続きます…。スウェーデン発の「生き方」について問いかける絵本シリーズの6冊目。
佐賀さんから
「初めてこの絵本を読んだあと、心が重くなりました。教室で起こったいじめ、その場にいたら、自分ならどうしていたか。静かにそんな問いかけをされているようでした。最後の数ページに、キノコ雲、兵士に抱かれた幼子、大きな銃を誇らしげに持った少年などのモノクロ写真が掲載されています。『わたしのせいじゃない』という言葉を違う言葉に変えることが、平和へのスタートであると暗示しているのかもしれません」
<大人が絵本を楽しむ会>
佐賀さんがファシリテーターを務める、大人のための絵本の会。好きな絵本を1冊持ち寄り、絵本について語り合います。新刊や人気の絵本の紹介もあります。月に1回開催。今月は8月14日(金)。会場は江別蔦屋書店。詳しくは、江別蔦屋書店のホームページhttps://ebetsu-t.com/から。

 

谷岡碧さん <読み聞かせユニットenetsのお話担当>
「へいわってすてきだね」 詩/安里有生、画/長谷川義史(ブロンズ新社)

2013年6月23日の沖縄慰霊の日、糸満市の平和祈念公園で行われた戦没者追悼式で、当時小学1年生だった少年・安里有生くんが詩を朗読しました。この詩は、第23回児童・生徒の平和メッセージで最優秀賞に選ばれた「へいわってすてきだね」です。この詩に、長谷川義史さんが絵をつけた、平和への願いが込められた1冊です。
谷岡さんから
「私も1年生の息子がいます。安里くんが1年生のときに願った純粋で、まっすぐな想いを大人として守ってあげたいと思います。子どもの言葉だからこそ、押しつけがましいところもなく、平和についてスッと心に入ってくる1冊です」