MOKUな人 Vol.1  河崎宏さん(マルカワみそ株式会社代表取締役)

「食と健康に貢献することが使命」

「MOKUな人」は、MOKUと関わりのある方やマガジンコンセプトに合った活動をされている方たちを紹介していくコーナーです。1回目は、MOKUの店「Agt」で販売している味噌メーカー「マルカワみそ」の代表取締役・河崎宏さんです。

食べ物は、金儲けのためのもの? それとも命の糧?

福井県にある「マルカワみそ」は、創業1914(大正3)年。現在は、自然栽培の原料や有機栽培の原料を用い、木桶を使った伝統製法で味噌作りを行っています。

社長の河崎宏さんが、有機や自然栽培の原料にこだわるようになったきっかけは20歳のとき。東京農業大学の学生だった河崎さんがたまたま大学生協で見かけて手に取ったのが、食品添加物の危険性について訴え続けた郡司篤孝さんの本でした。「その本を読んで、『食べ物って、一体何なんだろう?』と考えるようになりました」と話します。金儲けのためのものなのか?それとも命の糧なのか? そのような問いを自身に投げかけているうちに、残りの大学生活は、食べることや生きることについての答え探しをしていたと振り返ります。

大学卒業後、味噌屋であった実家に戻った河崎さん。父親に「無農薬の大豆を使った味噌を作りたい」と伝えますが、原材料の大豆にそこまでこだわって味噌を作っていなかった時代、「そんなものは作れない」と一蹴されてしまいます。「味噌に関しては、まだまだ駆け出しで、実力もなかったですからね。でも、いつか絶対に作るぞと心にその想いを秘めていました」。

原材料作りに着手。農家を始めるものの…

1992年、37歳のとき、もともと実家で所有していた100m×130mの農地を父親に貸してほしいと願い出ます。自分で原料の大豆を無農薬で作ってみようと考えたのです。「ダメだと叱られましたが、誰にも迷惑かけないからと約束して、やっと始めることができました」。ところが、当時はまだ無農薬栽培や有機栽培を行っている農家さんが周りにはほとんどいなかったため、手探りでのスタート。農業部門と味噌製造部門の二足のわらじで、河崎さんは朝から晩まで働き詰めでした。

念願だった自社栽培の有機米と有機大豆による有機味噌が完成しますが、当時はまだ有機やオーガニックという言葉が知られていない時代、「作れば作るだけ赤字が続きました」。「こんなにいいものを作っているのに、なぜ売れないのだろう?」と考える日々、過労のために倒れたことも2度あったそう。1999年に有機JAS法が制定され、少しずつ有機栽培の専業農家が増え始めるとともに、河崎さんは農業部門を廃止することにします。ちょうど農業をはじめて8年目のことでした。「きちんと納得のいく有機の原料をプロの農家さんに作ってもらって、それを使って味噌を作っていこうと決めました」。

有機やオーガニック、やっと時代が追い付いてきた

最初は、スーパーの棚にずっと残っていたという河崎さんの味噌。原材料や製法、すべてにこだわって作っている分、どうしても価格は高くなります。価格訴求を重視している売り場では、安い味噌にかないません。父親からも「ビジネスとして成立していない。もうやめておけ」と言われますが、「売れる、売れないじゃない。食べ物は、命の源だ。人の命を削るようなものを作って売りたくない」と言い返します。とはいえ、「正直、そのころは自信もなくなっていました」と河崎さん。

ところが、少しずつ河崎さんの味噌を手に取る人が増えていきます。有機農法やオーガニックの認知が高まってきた時代の流れも後押しし、東京の高級スーパーなどでの扱いがはじまります。

オーガニックの学びを深めていくうちに、河崎さんは肥料を使わない自然栽培に出合います。有機味噌の次は、「自然栽培の原料で作った味噌を広げていきたい」と考えるようになり、2010年に再び農業部門をスタート。自然栽培の米と大豆を用いた味噌は、「100年後の輝かしい日本の未来に向けての味噌作り」という想いから「未来」と名付けられました。

米と豆のほか、仕込みに使う麹菌や地下水にもこだわり

マルカワみそのこだわりは、大豆や米だけではありません。健康に貢献できるものを作りたいと考える以上、製造方法に至るまで徹底してこだわっています。まずは、発酵食品に欠かせない「麹菌」。かつて、それぞれの味噌屋は自分たちで菌を採取して味噌作りを行っていましたが、明治以降は純粋培養する技術が導入され、味噌屋が自分の蔵で採取することはなくなり、味噌屋は菌を培養しているところから購入するようになりました。しかし、マルカワみそでは、自家採取の麹菌を用いて味噌作りを行っています。培養も薬剤処理もしていない自然な麹菌は、発酵の力が強く、美味しい味噌に仕上げてくれます。河崎さんいわく、「麹菌を自家採取している味噌屋は私の知る限り、日本ではうちだけだと思います」とのこと。

マルカワみそでは仕込みに地下水を用いています。自然にろ過された地下水は、もちろん塩素消毒などは行っていません。硬度が高めというのもポイントで、軟水が多い他の地域とは異なった味わいを生み出しているそう。

伝統的な木桶を使った天然醸造だから生まれる味わい

ステンレスのタンクや強化プラスチックの容器で仕込みを行う味噌屋が増え、今やそれが当たり前となっていますが、マルカワみそはすべての味噌を昔ながらの木桶で仕込んでいます。その理由は、「美味しいから」。木桶を用いることで、特有の風味が生まれるのだそう。

そして、その木桶を用いて、約10カ月かけてじっくりと天然醸造させます。加温して強制的に発酵させ、3カ月ほどで味噌を完成させるメーカーが多い中、マルカワみそは、加温しない天然醸造という作り方を行っています。「寒仕込みと言って、寒い時期に仕込みをし、暑い夏を経験している味噌は抜群に美味しいです。ゆっくり熟成しているからこそ味わえる風味があります」と河崎さん。コストや手間はかかるけれど、食べる人たちのことを考えれば、そこはやはりこだわり続けたいと話します。

次の世代へ引き継がれていく味噌作りへの想い

マルカワみそには、「伝統を守る、約束を守る、日本の未来への貢献」という3つの約束があります。河崎さんの想いは、常務であり工場長を務める息子の紘徳(ひろのり)さん(写真の左から2人目)にしっかり引き継がれ、今は親子で未来へ向かって走っています。紘徳さんは、「『食』という字は、人に良いと書きます。これからもたくさんの人たちの健康に貢献していきたいです」と話し、ブログや動画を通してマルカワみその発信も行っています。

命の源である「食」を大切にという想いが詰まったマルカワみその製品。丁寧に作られた味噌は、食べればその想いが味と直結していると実感できる美味しさです。

マルカワみそはAgt店舗でも扱っています。マルカワみそホームページはこちら