「コーヒー」と生きる〜そして、一杯の向こう側〜第27話
人は“正しさ”では動かない

人は、正しいことを言われても、動きません。
むしろ、正しければ正しいほど、少し距離を取られてしまうことすらあります。
かつての私は、正しいことを伝えれば、人は動いてくれると思っていました。
理屈もある、経験もある、間違っていない。
でも、それでも動かない現実に、何度もぶつかりました。
そのとき心に残った言葉があります。
正論を振りかざしても、それは正義とは言えない。
相手が、「わかりました」と自分の中で納得して初めて、それは道になる。
この言葉に触れたとき、はっとしました。
正しさは、こちら側の都合でしかないことがある。
相手の中に届いていなければ、それはただの“圧”になってしまう。
経営をしていると、どうしても白か黒か、YESかNOかで判断しなければならない場面があります。
金融機関とのやり取りは、まさにそうでした。
正解か、不正解か。
通るか、通らないか。
でも、人と向き合う場面は、そこではありませんでした。
物事は、白と黒だけでは動かない。
人が動くのは、その間にある“余白”の中でした。
振り返ると、うまくいかなかったときほど、私は正しさを握りしめていました。
そして、うまくいき始めたときほど、それを手放していました。
何かを伝えるとき、誰かに動いてほしいとき、必要なのは、正しさを押し出すことではなく、相手が自分で選べる状態をつくること。
そのために、自分がどんな空気でそこにいるのか。
それがすべてだったように思います。
人は、正しさでは動かない。
でも、納得の中では、静かに動き出す。
(文:横井 力)

